前回は、暮らしの中でSCAPEを使いながら、ムートンとベーストレイのバランスを調整してきました。
ただ、自分たちに使いやすいことと、誰かの暮らしに馴染むことは同じではないため、3名の方に9日間自由に使っていただきました。
- Aさん 20代男性
- Bさん 20代女性
- Cさん 30代女性
置いたものや配置、触れた感覚を記録してもらい、SCAPEが実際の暮らしの中でどう使われるのかを見ていきました。
最初は、リングやネックレス、時計、眼鏡など、私たちも想定していたものが多く置かれていました。
しかし日を重ねるにつれて、鍵や化粧品、本、天然石、ぬいぐるみ、裁縫道具まで、さまざまなものが現れる

最初はトレイを作ろうとしていたわけではありません。

ムートン素材を使って何ができるのか。
身体に近いもの、家具に関わるもの、日常の中で長く使われるものなど、さまざまな方向から可能性を考えました。

ブランケットのように身体を包むものや、椅子に寄り添うもの、
バッグのストラップに付けるものなど。

アイデアを書き出していく中で、その数は50ほどになりました。

しかし、どれもムートンの魅力を十分に引き出しているとは感じられませんでした。

ムートンには、触れた時だけではなく、見た瞬間にも触覚を想像させる特徴があります。

柔らかな毛並みや表情は、視覚の中にすでに触れる感覚を含んでいます。

その性質を考えた時、強く主張するものではなく、日常の中で自然に触れる距離にあることがふさわしいのではないかと思いました。

私たちは置くものには頻繁に触れていますが、それを支える場所について意識することはほとんどありません。

対象物ではなく、支える場所の方が触覚を持っていたら面白いのではないか。

毎日の小さな動作が、少し違った体験になるのではないか。

このような考えから、トレイという形が見えてきました。

実は、トレイは最初から最も分かりやすい選択ではありませんでした。

用途は限定されるかもしれないし、
期待されたムートンの使い方ではなく、奇抜すぎるかもしれない。

もっと大きなプロダクトを作る方が、ブランドとして分かりやすいのではないかという考えもありました。

それでもこの決断に至ったのは、生活の中で見過ごされている小さな関係を変えることこそ、自分たちが取り組むべきことだと思ったからです。

ものを置く場所を変え、そこにある時間や触れ方を少し変えることで、

ふと目に入ってきた時の視覚的な豊かさや、儀式的な感覚を日常に取り入れられるのではないか。

そんな問いからこのプロダクトは生まれました。

次回は、なぜこのトレイが一枚の面ではなく、複数の「島」を自由に配置する構造になったのか。
その発想の背景にある、日本庭園と箱庭について紹介します。